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ドネペジル(アリセプト)が効かない認知症と「治る認知症」ー嗜銀顆粒性認知症、神経原線維変化型老年期認知症など

ドネペジル(アリセプト)は日本の製薬会社エーザイが開発した認知症治療薬で応援したいところですが、ドネペジルがあまり効かないことがこれまでたびたび問題になってきました。

最近になって認知症にいくつかの新種が発見され、そのいずれもがコリンエステラーゼ阻害薬が効かないことがわかってきました。

もちろん、明らかになったことはまだまだ一部であり、まだよくわからないこともたくさんあります。

この記事では、近年新たに見つかった、ドネペジルが効かない認知症治る認知症について解説しています。

目次

ドネペジルが効かない認知症

従来、認知症は主に4つの型、つまり①アルツハイマー型認知症(約50%)、②脳血管性認知症(約20%)、③レビー小体型認知症(約15%)、④前頭側頭型認知症(数%)に分類されてきました。

そのうち①アルツハイマー型認知症と③レビー小体型認知症に対して、ドネペジル(アリセプト)が広く使われています。

しかし、患者によってはドネペジルを服用しても効果が見られない場合や、怒りやすくなる、落ち着かなくなる、不機嫌になる、攻撃的行動を取るなど、情緒面での障害がひどくなり、介護する家族に大きな負担がかかるという問題がおこっていました。

これまでは、「それは薬が効いている証拠だ」とか「薬の副作用ではなく、認知症の症状の一部」などと説明されたり、周辺症状を抑えるためのお薬(メマンチン、抑肝散、ブレクスピプラゾールなど)が処方されてきました。

ところが、近年になって新たなタイプの認知症が発見されたり、新事実が次々と明らかになってきました。

嗜銀顆粒性認知症神経原線維変化型老年期認知症(SD-NFT)大脳辺縁系優位型老年期TDP-43脳症(LATE)
主症状焦燥感、不機嫌、易怒性記憶障害記憶障害
原因嗜銀顆粒蓄積神経原線維の変性TDP-43蓄積
進行速度遅い遅い遅い
部位迂回回(海馬に隣接)海馬および海馬傍回大脳辺縁系
ドネペジル反応性

①嗜銀顆粒性認知症

1987年にドイツの神経病理学者によって発見。

特に80歳以上で発症しやすく、頻度は高齢者の連続剖検で約16%。

この病気で蓄積する原因物質が死後の病理検査で銀染色という特殊な方法を行ったことで発見されたことでこの病名がつけられました。

アルツハイマー病と診断されドネペジルの服用開始後に焦燥感、不機嫌、易怒性など情緒面の症状が悪化した場合は、アルツハイマー型でなく嗜銀顆粒性認知症を疑う必要があります。

特徴

物忘れより焦燥感、不機嫌、易怒性など情緒面での症状が顕著。

脳内の障害の程度に左右差があります。

原因

原因物質は、顆粒状、一部紡錘状の異常タンパク(嗜銀顆粒)が特に海馬の隣にある迂回回という部位に蓄積し、徐々に脳全体に広がり発症します。

症状

症状は、アルツハイマー型と比較してゆっくり進行し、焦燥感、不機嫌、易怒性が顕著。

記憶障害の程度は軽く、早期から生活の自立度が低下するアルツハイマー型認知症とは異なり、生活は自立している場合が多い。

診断

生前診断は困難で、確定診断は脳剖検によって行われます。

異常タンパク(嗜銀顆粒)が蓄積する迂回回は、アルツハイマー病によって萎縮する海馬のすぐ隣にあるためアルツハイマー型との鑑別が難しい。

内側側頭葉の萎縮と血流低下の左右差が本疾患を疑うきっかけになります。

(参照:認知症疾患診療ガイドライン2017

➁神経原線維変化型老年期認知症(SD-NFT)

90歳以上で診断される認知症の約20%がこのタイプ。

認知機能は低下していますが、嗜銀顆粒性認知症と異なり、不機嫌、易怒性、異常行動などの情緒面での症状は目立たず人格が保たれ、比較的穏やかに生活されている印象。

ドネペジルを服用しても治療効果が乏しく、薬剤に反応を示しません。

その場合、アルツハイマー型ではなく、SD-NFTを疑ってみる必要があります。

原因

原因は老化現象が加速したことにより、海馬および海馬傍回での神経原線維の変性(タウタンパクのリン酸化)・死滅が進み発症。

アルツハイマー型の原因が①老人斑の蓄積と②神経原線維の変性ですが、SD-NFTはこのうち②神経原線維の変性のみが認められ、①老人斑の蓄積がほとんど認められません。

また神経原線維変化はアルツハイマー型と違って大脳皮質までは広がらず側頭葉内側に限局。

症状

主な症状は記憶障害で、興奮・易怒性・異常行動などは目立たず情緒面では落ちついています。

これは嗜銀顆粒性認知症とは反対であり、鑑別に役立ちます。

進行速度は、アルツハイマー型と比べて緩徐。

診断

生前による確定診断はできません。

脳内での萎縮部位がアルツハイマー型と同じ海馬および海馬傍回で、アルツハイマー型との鑑別が困難。

(参照:認知症疾患診療ガイドライン2017

③大脳辺縁系優位型老年期TDP-43脳症(LATE)

2019年に発表された新しい認知症。

有病率は年齢とともに増加し、80〜85歳以降は劇的に増加します。

80歳以上で5人に1人、85歳以上で約3分の1の脳にLATEが存在するとされています。

今までアルツハイマー型と診断されていた症例の約30%がLATEではないかとも。

将来的には、アルツハイマー型を凌いで最も患者数が多い認知症になる可能性があります。

原因

TDP-43という異常タンパクが脳内、特に大脳辺縁系を中心に蓄積して発症します。

なお、このTDP-43は、認知症で4番目に多い前頭側頭型認知症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の原因物質でもあります。

症状

アルツハイマー型と似ているが、進行速度がアルツハイマー型よりおそい。

診断

生前診断は不可能で、死後の脳解剖によってのみ確定診断されています。

2019年に発見されたばかりの認知症で、最新の認知症診療ガイドラインにまだ掲載されておらず、また治療法も確立していません。

「治る認知症」もドネペジル無効

アルツハイマー型認知症と診断され長年ドネペジルを服用している。

ところが、認知機能低下が認知症によるものではなく、思いもよらない疾患が原因だった、ということが多々起こっています。

当然、ドネペジルは効きません。

この場合、原疾患を治療することにより認知機能が回復します。

これら認知機能の低下を引き起こす疾患は、「治る認知症」と呼ばれています。

甲状腺機能低下症

ドネペジルが効かない「治る認知症」の筆頭は、甲状腺機能低下症です。

甲状腺機能低下症の代表的な症状は、疲れやすい、寒さに弱い、からだがむくみやすい、眉が薄くなる、体重増加などがあり、更には意欲や気力の低下、物忘れ症状があります。

海外データとの比較で日本の認知症患者の約10%は甲状腺機能低下症患者と推計されています。

認知機能低下の原因が認知症発症によるものではなく、甲状腺機能低下症の副産物だということです。

実際に、甲状腺機能障害の検査を実施している診療所は26%しかなく、しかも専門的な治療を行う認知症疾患医療センターに指定されている医療機関でも57%にとどまっています。 

(引用元:医療経済研究機構

甲状腺機能低下症による認知機能低下は、原疾患の治療により回復します。

また、女性の甲状腺機能障害は男性の13倍。

女性が「認知症かな?」と思った時、この甲状腺機能低下症を真っ先に疑うべきです。

高齢発症てんかん

近年、60歳以上となって初めててんかんを発症する「高齢発症てんかん」が注目されています。

主訴は物忘れや反応が鈍いといったもので認知症と判別が難しく誤診されやすい。

高齢発症てんかんは、発作の前に前兆がある場合があります。

突然変な匂いを感じたり、お腹からこみ上げてくる不快な感じがしたり、今まで何度も見たことがある物や風景を初めて見るように感じたり、その逆に初めての物や風景を今まで見たことがあると錯覚したり。

これらの前兆に引き続きてんかん発作が起きます。

発作が終わると朦朧状態がしばらく続く場合があり、これが認知症と間違われます

60歳以降の有病率は1.5%程度、少なくないです。

この10年ほどで高齢発症てんかんの病態や治療の研究が進み、少量の抗てんかん薬で効果を示すことがわかっています。

その他の「治る認知症」

「治る認知症」は、甲状腺機能低下症、高齢発症てんかん以外にもたくさんあります。

どれも認知機能が低下し、認知症が発症したと間違われます。

  • 正常圧水頭症
  • 膜性硬膜下血腫
  • 脳腫瘍
  • ビタミンB12欠乏症
  • ビタミンB1欠乏症(アルコールの過剰摂取)
  • うつ病

0120-214-097(無料電話相談)

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